2025.07.10
十二指腸潰瘍の症状や原因・検査方法など徹底解説
十二指腸潰瘍とは?
十二指腸潰瘍とは、胃から送られてきた食べ物が最初に到達する部分である「十二指腸」の粘膜が、胃酸などの消化液によって深くえぐられた状態になる病気です。
通常、胃や十二指腸の粘膜は胃酸から身を守るための防御機能を持っていますが、この防御機能と胃酸のバランスが崩れることで潰瘍ができます。
主に、ヘリコバクター・ピロリ菌感染や薬の副作用、ストレス、生活習慣などが原因で、みぞおちや背中の痛み、胸やけ、吐き気などの症状が見られます。
十二指腸潰瘍は再発しやすい病気ですが、近年では効果的な薬や除菌療法の登場により、薬物療法で完治できることがほとんどです。症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
十二指腸潰瘍の主な原因
以下の原因が単独または複数組み合わさることで、十二指腸の粘膜の防御機能と胃酸の攻撃因子のバランスが崩れ、潰瘍が発生します。特にピロリ菌感染は、潰瘍の再発にも大きく関わっているため、除菌治療が重要視されています。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染(最も多い原因)
十二指腸潰瘍の80%以上はピロリ菌の感染が原因とされています。ピロリ菌は胃の粘膜に生息する細菌で、粘膜を傷つける毒素やアンモニアを出すことで、炎症を引き起こし、潰瘍ができやすい環境を作ります。
ピロリ菌に感染していると、胃酸分泌を過剰にすることもあり、これも潰瘍形成につながります。
薬剤の副作用
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
ロキソニン、イブプロフェン、アスピリンなどの解熱鎮痛薬や炎症を抑える薬の服用が十二指腸潰瘍の原因となることがあります。これらの薬は、胃の粘膜を保護する「プロスタグランジン」という物質の生成を抑えてしまうため、胃酸による粘膜の損傷を招きます。
ステロイド剤
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)も、潰瘍のリスクを高めることがあります。
ストレス
精神的・肉体的なストレス(過労、睡眠不足、人間関係の悩みなど)は、胃酸の分泌を過剰にしたり、胃や十二指腸の血流を低下させたりすることで、粘膜の防御機能を弱め、潰瘍の発症リスクを高めます。ただし、ストレス単独で潰瘍が発生するというよりは、他の原因と複合的に作用することが多いとされています。
生活習慣
喫煙
胃の血流を減少させ、粘膜の保護能力を低下させます。
アルコールの過剰摂取
胃酸の分泌を刺激し、粘膜を直接刺激します。
刺激物の摂り過ぎ
カフェイン、香辛料など刺激の強い食品は胃酸分泌を促進します。
不規則な食事
食事の時間が不規則だと、胃酸分泌のタイミングが乱れ、胃に負担がかかることがあります。
早食い
よく噛まずに食べると、食べ物が大きな塊のまま胃に入り、過剰な胃酸分泌を招くことがあります。
十二指腸潰瘍の症状
これらの症状が見られる場合は、放置せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。特にタール便や吐血、激しい腹痛がある場合は、すぐに救急医療機関を受診してください。
みぞおちの痛み (最も特徴的な症状)
空腹時に痛みが現れやすく、食事を摂ると一時的に痛みが和らぎます(食後2~3時間後くらいに痛みが出始めることもあります)。
焼けるような痛み、キリキリとした痛み、重苦しい痛みなど様々で、夜間や早朝(午前2時~4時頃)に痛みで目が覚めることもあります。
背中の痛み
潰瘍が十二指腸の後ろ側に位置する場合、みぞおちの痛みに加えて、背中(特にみぞおちの裏側あたり)に重苦しさや痛みを伴うことがあります。
消化器症状
胸焼け
みぞおちから胸のあたりにかけて焼けるような不快感が出る場合があります。
胃もたれ、膨満感
食後に胃が重く感じる、お腹が張る感じになることがあります。
吐き気、嘔吐
胃酸が逆流したり、潰瘍による炎症が刺激になったりすることで起こることがあります。
食欲不振
痛みが続くことで食欲が低下することがあります。
出血による症状 (重症の場合)
潰瘍から出血が起こると、以下のような症状が現れることがあります。
タール便(黒色便)
潰瘍からの出血が消化管を通過する間に酸化され、コールタールのように真っ黒で粘り気のある便が出ます。これは消化管出血の重要なサインです。
吐血
コーヒーの粉のような黒っぽい液体を吐くことがあります。これは胃酸と血液が混ざったものです。
貧血の症状
出血が続くと貧血になり、めまい、立ちくらみ、息切れ、動悸、顔面蒼白などの症状が現れます。
穿孔(せんこう)による症状 (非常に重篤な場合)
潰瘍が十二指腸の壁を完全に貫通して穴が開いてしまう(穿孔)と、突然の激しい腹痛(「突き刺すような痛み」「大砲の弾が破裂したような痛み」と表現されることもあります)が起こります。
この場合は緊急手術が必要となる非常に危険な状態です。腹膜炎を引き起こし、お腹が板のように硬くなる「板状硬」という状態になることもあります。
十二指腸潰瘍の検査
以下の検査を組み合わせて、十二指腸潰瘍の確定診断、原因の特定(特にピロリ菌の有無)、重症度の評価、そして治療方針の決定が行われます。症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)は、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接目で見て、炎症の有無、程度、範囲、粘膜の萎縮や肥厚、びらん、潰瘍などを詳細に確認する最も確実な診断方法です。
潰瘍の有無、大きさ、深さ、出血の有無、炎症の程度などを詳細に確認できます。潰瘍からの出血がある場合は、内視鏡を使ってその場で止血処置を行うことも可能です。
京都市伏見区のなかた内科・胃腸内科クリニックでは、鎮痛剤を使用し、苦しくない無痛の内視鏡検査を行います。患者さんが眠っている間に検査が終わりますので、苦しさや痛みを感じることなく胃カメラ(胃内視鏡検査)を受けていただけます。
ヘリコバクター・ピロリ菌検査
十二指腸潰瘍の主な原因であるピロリ菌の感染を確認するために、内視鏡を用いた迅速ウレアーゼ試験や、内視鏡を用いない尿素呼気試験など、様々な方法があります。
画像診断(バリウム検査、胃レントゲン検査)
バリウムという造影剤を飲んでからX線撮影を行う検査です。
内視鏡検査と比べて精度は劣り、小さな潰瘍や初期の潰瘍は見つけにくいことがあります。
最近では内視鏡検査が主流となっているため、あまり行われなくなってきています。
血液検査
潰瘍からの出血がある場合に、貧血(ヘモグロビン値の低下など)の有無や程度を確認します。
炎症反応(CRPなど)の有無を調べることもあります。
十二指腸潰瘍の治療
十二指腸潰瘍の治療方法は、主に薬物療法が中心となります。原因や症状の重症度に応じて、適切な治療法が選択されます。
薬物療法(最も一般的)
胃酸分泌抑制薬
- プロトンポンプ阻害薬(PPI): 胃酸の分泌を強力に抑える最も効果的な薬剤です。胃酸による刺激を減らし、潰瘍の治癒を促進します。
- H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー): PPIに次いで胃酸分泌を抑える効果があります。
胃粘膜保護薬
胃や十二指腸の粘膜を保護し、修復を助ける薬です。胃酸分泌抑制薬と併用されることがあります。
ヘリコバクター・ピロリ菌除菌療法
潰瘍の原因がピロリ菌感染である場合、除菌治療は必須です。除菌に成功すると、潰瘍の再発率が大幅に低下します。
通常、胃酸分泌抑制薬(PPI)、2種類の抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾールなどから2種類)を1週間服用します。
生活習慣の改善
薬物療法と並行して、以下の生活習慣の見直しが重要です。
禁煙
喫煙は胃の血流を悪化させ、潰瘍の治癒を遅らせ、再発リスクを高めます。
禁酒または節酒
アルコールは胃酸分泌を刺激し、粘膜を刺激します。
ストレスの軽減
ストレスは胃酸分泌を過剰にし、潰瘍を悪化させることがあります。十分な睡眠や休養をとり、リラックスする時間を持つことが大切です。
規則正しい食生活
暴飲暴食を避け、消化に良いものを中心に規則正しい時間に食事を摂ることが推奨されます。刺激物(香辛料、カフェインなど)や胃に負担をかける食品(脂っこいものなど)は控える方が良いでしょう。
内視鏡的治療(出血している場合)
潰瘍から出血している場合は、緊急で内視鏡検査を行い、そのまま止血処置が行われます。
止血方法には、クリップで血管を挟む、エタノールなどを注入して固める、レーザーや高周波で焼灼する、などの方法があります。
手術(まれなケース)
薬物療法や内視鏡治療で対応できない、非常に重症な場合に行われます。
穿孔(せんこう)
潰瘍が十二指腸の壁に穴を開けてしまった場合は、緊急手術で穴を塞ぐ必要があります。
難治性潰瘍
長期間治療しても治らない潰瘍や、繰り返し出血を繰り返す潰瘍の場合に、潰瘍のある部分を切除する手術や、胃酸分泌を抑える神経を切除する手術(迷走神経切断術)が検討されることがあります。
十二指腸の狭窄
潰瘍が治癒する過程で、十二指腸が狭くなって食べ物の通過が悪くなる場合(瘢痕性狭窄)には、狭くなった部分を広げる手術が必要になることがあります。
まとめ
十二指腸潰瘍は、主にヘリコバクター・ピロリ菌感染や薬剤の副作用、そしてストレスや生活習慣の乱れが原因で、十二指腸の粘膜が深く傷つく病気です。空腹時のみぞおちの痛みが特徴的で、重症化するとタール便や吐血といった出血症状、さらには激しい腹痛を伴う穿孔を引き起こすこともあります。
診断は胃カメラ検査が最も確実で、原因となるピロリ菌の有無も調べられます。治療は胃酸分泌抑制薬と、ピロリ菌が原因であれば除菌療法が中心となり、多くの場合、薬で完治を目指せます。
再発しやすい病気であるため、治療後も禁煙・節酒、ストレスの管理、規則正しい食生活といった生活習慣の改善が非常に重要です。もし十二指腸潰瘍の症状に心当たりがあれば、決して自己判断せず、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。


